日記

Dr.yamada's Column

■20080430（水）　～未来の日記～　⑳

してやったり！と喜んだぼくたちは、下に落ちた警官にこれでもかとマシンガンをぶっ放し、二階からも反撃がこない事を確かめると、全身穴だらけになって倒れているインディを横目に、工場の中へと突入しました。
「さあ、ここからが本番よ」
緊張感漂う工場の中、ぼくたちは肩で大きく息をしながらゆっくりと奥へと進み、細長い通路の終わりまで来たところでクローバーが、
「この角を曲がれば生産ライン、その奥が貯蔵庫、ここを爆破してあたしたちはタイムスリップするのよ」と言いました。
そして目をつむって祈るような表情を浮かべ、すうっと呼吸を整えると次に目をカっと見開き、背にした壁からパっと身を乗り出すとすぐにサっと元へと戻り、そのクローバーの残像を追うかのように銃弾が撃ち込まれ、
「右４５°に二人、左７５°に三人」とぼそっとつぶやいたクローバーは、銃撃が切れた合間を見計らってまたサっと身を乗り出すと今度は乗り出したと同時にズガガガガっとマシンガンをぶっ放し、またサっと元へと戻ると、
「あと二人」と言ってまたパっと身を乗り出してはすぐ様ズガガガガっとぶっ放し、今度は元へは戻らずぼくに顔だけ向けると、
「ＯＫハニー、先へ進むわよ」と言いました。
そんなクローバーの後ろ姿を追いながらぼくは、なんてカッコいいんだろう、とついうっとりしていると、
「伏せて！」と言ってクローバーはぼくの腕を掴んでサっと物陰に隠れ、するとすぐ様敵からの銃弾が頭の上をズダダダダっと通過し、それが通過し終えた瞬間にパっと立ち上がったクローバーはマシンガンをまたズガガガガっとぶっ放せば、次々と築かれる死体の山に、ぼくもクローバーのようにカッコよく敵を撃ってみたいという衝動に駆られ、断りもなくちょいっと立ち上がってすぐ様マシンガンをぶっ放そうと思ったその時です。
プシュン
ピュ～
「ヒャァァァー」
なんと、一発の銃弾はぼくのたんこぶの先っちょに見事命中し、１㎝程の穴を開けて通過して行ったのです。
「ハニー！なんで立ち上がったのよ！」
クローバーはびっくりして腰を抜かしたぼくに駆け寄り、顔を近づけて傷口を確かめると、噛んでいたガムを口から取り出しそのガムを半分こにして傷口の表と裏に詰め込み、
「勝手に動いちゃダメよ」と言ってウインクしました。
それからまたマシンガンをぶっ放し、敵との攻防戦を繰り広げながらちょっとずつ奥へと進み、遂に貯蔵庫の入り口まで辿り着くと、
「さあハニー。最後の試練よ、覚悟はできてる？」と言いました。
ぼくは傷口に詰めたガムの隙間から血が流れて額から垂れてくるのも気にせず、大きくこくんとうなずいて、
「大・丈・夫！」と例のモノマネをしたのですが、それに関しては相変わらずクールに受け流されました。
「じゃあ、行くわよ」
クローバーはダイナマイトに点火すると貯蔵庫の中へと投げ込み、ぼくをかばうようにして身を低くしました。
ドーン！
ドッカーン！
最初にダイナマイトの爆発音が聞こえ、続いて貯蔵庫の油が爆発する音が聞こえ、ぼくたちは爆風と炎に包まれながらどこかに飛ばされて行くような感覚に襲われ、そこで意識を失いました。

つづく

■20080427（日）　アニマルライヴ！

習慣とは恐ろしいもので、職業柄毎朝キチキチ早起きしているおれは、休日と言えども体は勝手に目覚めてしまい、家のみなさんから近所の方たちまで、まだまだ起きだしてこない休日の朝の静けさの中、あまりのすがすがしさについうっかり洗車をしてしまい、もしも隣の奥さんが雨戸をガラガラ開けておれの姿を見たら、え！？早朝六時半に洗車してるってどんだけぇ！？と思われても仕方ないとは思いつつ、そう言えば昨日ライヴだったんだよなあと思えば、更にどんだけぇと思ったりして、こんなロッカーでいいのだろうか、もっと不健康であるべきではないのか、しかし朝日に反応するニワトリの如く勝手に目覚めてしまうこの体質に逆らうこともできず、かわりに夜が超弱いおれはやっぱりロッカーとしてどうなんだろうと思いったり、例えば朝八時くらいにライヴしたらどんな気分かなあなどと考えもして、昨日のアニマルではまたよくミスったなあとか、次は五月の十一日キャメル八倒うまくやれたらいいなあとか、あ、またアニマルだっけなあとか思っているうちに気がつけば家
の車三台も洗ってこと更どんだけえとびっくりしつつ、時計はまだ朝の八時を回ったばかりでした。
終わり。

■20080425（金）　～未来の日記～　⑲

ぼくたちは、クローバーから渡されたマシンガンを肩に担ぎ、戦場と化した駅前広場をやっとの思いで脱出すると、人垣を掻き分けて、少し静かな所で休憩をとりました。
「ふぅふぅ、うぅ、痛たたたぁ」
インディは、ズボンの裾から流れ出る血を眺めて、大きなため息を吐きました。
「ふぅぅぅ‥おれはもうダメだぁ、もう一歩も歩けねえ。みんな、おれにかまわず行ってくれえ」
クローバーは飲んでいたペットボトルをインディに差し出し、
「インディ、もう少しよ、あとちょっとがんばれば、この星から出られるのよ」と言って励まし、
「ハニー、あんたは大丈夫？」と聞くので、ぼくはテロを起こしたサラリーマンの仕草をマネして、
「大・丈・夫！」と言ったのですが、誰にも気づいてもらえませんでした、が、それもそのはず、この話しの時には、インディもクローバーもその場には居なかったのですから、と、こんな話しはともかく、ぼくはクローバーに次の作戦を尋ねました。
「ねえクローバー、どうやって中に入るの？」
クローバーはすぐ先にあるオイルファクトリーを横目で見つめ、吸っていたタバコを口にくわえるとマシンガンの引き金をガシャンと引いて、
「真正面から強行突破よ」と言いました。
その女戦士の、いや、本当は男だけど、その姿を見たインディは、
「くそぅ、もうひとがんばりするかぁ！」と言って歯を食いしばって立ち上がり、マシンガンを杖代わりに歩きだしたので、ぼくとクローバーは一瞬目を合わせてニヤっとし、それから歩き出しました。
さあ、いよいよ最後の戦いです。
どういうわけだか、こんなことにはなりましたが、元々ぼくはオイールへの復讐を誓った身です。
例えオイルファクトリーにオイールは居なくとも、工場を爆破できればそれはそれで一矢報えたことになると思い、徐々に近づくオイルファクトリーの正門を前に、ぐっとマシンガンを握りしめたのでした。
「いい？行くわよ」
正門に着き、門の影からチラリと中を覗くと、手前に守衛の小屋がひとつ有り、その奥が工場の入り口で、人の気配はなく、いやに静かなのがぼくは気になり、躊躇なく入ろうとするクローバーを呼び止め、
「クローバー、こんなに静かなのっておかしくないかな？何か、とんでもない罠が張ってあるんじゃ‥」
不安げに中を覗くぼくにクローバーは、
「そうね、じゃあ試しにこれでも投げてみる？」と言ってダイナマイトに火を点け、ポイっと守衛の小屋目がけて放り投げました。
チリチリチリ‥ドーン！
「うわぁー！」
守衛小屋が半分吹き飛んだ瞬間、悲鳴と共に小屋の裏に隠れていた数名の警官が、まるで蜘蛛の子を散らすかのように逃げ惑い、それを見たぼくとクローバーはにっこり笑ってハイタッチし、ゆっくりとマシンガンを構えると、工場へ向かって逃げていく警官目がけてズガガガガ‥と容赦なく発砲しました。
バタバタバタ‥と倒れて行く様子にゲームでもやってるかのような感覚に捉われていると、
「上だぁ！隠れろぅ！」と突然インディが叫び、ぼくたちを門の裏に押し込んだ瞬間、インディは全身で一斉射撃を浴び、体中から血を吹いて倒れました。
どうやら、工場の二階の窓にも警官隊が潜んでいたようなのです。
「インディー！」
クローバーは悲痛の叫びをあげ、インディを門の影に引っ張り込もうとするものの、ちょっと手を出そうものならズダダダっと撃ち込まれ、インディの穴の数が増える一方になってしまいます。
インディの救出を諦めたクローバーは、ダイナマイトに火を点けると、門の裏から工場へ向かって思いっきりぶん投げました。
‥
‥
ドーン！
「うわぁー！」
門の影からそっと中を覗くと、工場の二階の壁に大きな穴が空き、吹き飛んで下に落ちた警官が数人、苦しそうに悶えていました。

つづく

■20080422（火）　～未来の日記～　⑱

「とにかく、早くここから逃げましょ！」
一向に止む気配のない銃撃戦に、うんざりした表情でクローバーがそう言うと、
「私はもうダメだ、置いてってくれ」と博士が言い、
「ここから逃げたって行くとこがねえしなぁ、こんな足になっちまったし、おれも置いてってくれぇ」とインディが言い、
「そんな‥置いていくわけにはいかないでしょ！？」とクローバーは言ったものの、確かにこの場から逃げたところで、この街には油になる以外やることがなく、街からも出ることができないとなれば、いっそのことここで戦死したほうがいいのではないか、そのほうが油になるよりもっと意義ある死を迎えられるのではないか、と思ったのではないか、とぼくは察し、
「みんな、どうしてそう素直に油になる運命を受け入れられるの？どうして油にならない方法を考えないの！？」と訴えたところで、元を正せばインディもクローバーも、油になるのが嫌で刑務所を脱獄し、シュバイツァー博士の言うもうひとつの惑星への移住を頼りにここまでやってきたことを思い起こせば、
「すまない‥私が腑甲斐ないばっかりに‥」とその場の空気を読んだのか、博士はそう言ってうなだれました。
「しかし、もしかしたら‥いや、確信は持てないが‥」
うなだれた博士がぶつぶつとつぶやいているのを聞いたインディは、
「なんだぁ博士よぅ、はっきり言ってみろよぅ」と言うと博士は、
「いや、あくまでもこれは可能性なんだがね、私がタイムスリップした時と同じ状況を作れば、もしかしたらタイムスリップができるのではないか、と思ってね‥」と言うとインディは、
「同じ状況かぁ？」と繰り返し、博士は、
「ああ」と答えて話しを続けました。
「ああ、同じ状況だよ。ただ、それを試すには命を懸けないとならないのだが‥私がタイムスリップした時の話しを覚えているかね？工場に火をつけ、燃え盛る炎の中意識を失い、気がつけば刑務所の中だったという。あの状況を作ることができれば、もしかしたらまたタイムスリップすることができるかもしれない、と思うのだが、できなければ確実に死が待っているのも忘れてはならないわけで‥」
「死ぬ覚悟ならさっきしたところよ」
「そうだぁ、おれもしただぁ」と二人が口を挟み、ぼくも続いて、
「ぼくも同じ気持ちだよ！」と言いました。
そんなぼくたちに博士は、
「じゃあ、やってみるかね？」と言い震える手でステージを掴み、よいしょ、と言って立ち上がったその時です。
プシュゥゥー！
立ち上がった博士の後頭部から血が吹き出し、博士は手もつかずにバタンと倒れました。
「博士ぇぇ！」
インディが這いずって博士の元へ行き、抱きかかえて揺すってはみたものの、博士が返事をすることはありません。
運の悪い博士は、飛んできた流れ弾にまたしても当たってしまい、今度の弾では即死するはめになってしまったのです。
ああ、なんてことでしょう。
一瞬チラリと見えた希望の光りも、博士の死を以て絶望へと変わり果ててしまいました。
「なによあんたたち、情けない顔、しないでちょうだい！」
クローバーはぼくたちにそう言い放つと、ステージ上を這ってサラリーマンの所へ行き、マシンガンを三挺と、ダイナマイトを五六本抱えて戻って来て、
「さあ、オイルファクトリーに殴り込みよ！」と言いました。

つづく

■20080419（土）　～未来の日記～　⑰

そこからは全てスローモーションのように見えました。
最初に胸から血を吹き出したＭＤが両手を広げて仰向けに倒れ、続くＳＤは口からゲボっと血を吐いてうずくまり、ＹＤは額を撃ち抜かれて寄り目をしたままひっくり返り、しかし警官隊のステージへの発砲はそれからも激しく続き、ギターアンプが火を吹き、ベースアンプが爆発して、穴だらけになったスネアドラムがコロコロとステージを転がりやがてパタンと平たく倒れた時、ようやく発砲は収まりました。
そして広場ではさっきまでの大騒ぎがうそのように静まり返り、電気のコードがブスブスと燻す音だけが、辺りに響き渡ります。
「ハニー！大丈夫！？」
クローバーが囁き声でぼくを呼び、ぼんやりとつっ立っているぼくの手を引き体を伏せさせ、
「インディ！あんたは！？」と言ってインディに目をやると、
「うぅ‥足を撃たれただぁ」とインディは呻きながら答え、
「博士ぇ、博士はどこだぁ？」と言って周りを見渡せば、
「わ、私ならここだよ」とグラスをカチカチと鳴らして博士は合図を送り、
「ああ、クソ、腹から酒が流れていく‥インディ、約束を破ってしまうことになりそうだ、すまん‥」と言って苦しそうに呼吸をしました。
よく見るとぼくの周りにはステージに近かったせいか、流れ弾に当たって血を流している人が大勢います。
「よおみんな、パーティーはまだ終わっちゃいないぜ」
突然ステージからＭＤの声が聞こえ、振り向くとＭＤは倒れたままの姿勢でマシンガンを握り、
「ウオォォォ！」と雄叫びを上げてマシンガンを警官隊に向けて発射しました。
ズガガガガガ‥
マシンガンの音が響き渡る中、このゲリラライヴを企画したサラリーマン風の男が大声で、
「みんなステージに集まるんだ！武器ならまだまだたくさんある！政府の犬共に目にモノ見せてやれ！」と怒鳴り、本人もマシンガンを構えると警官隊への射撃を始めました。
一瞬怯んだ警官隊も直ぐ様応戦を始めると、ステージに近い人たちも銃を手に取り撃ち始め、そうして戦場さながらの銃撃パーティーは始まったのでした。
一方、ぼくとクローバーは頭の上を銃弾が飛び交う中、背を低くしながら怪我を負ったインディと博士を、なんとか安全なステージ裏へと運び込み、二人の怪我の手当てを始めたのですが、なんせ二人とも素人なので、どう手当てしたらいいのかわかりません。
おろおろするぼくたちに、
「どうしました？」と、なぜかサーフボードを抱えた色黒のお兄さんが話しかけ、
「う～ん、ふむふむ、ああ、これは、撃たれている、ね？」と見たままを口にし、
「あ！ＭＤさん！大丈夫ですか！？」とステージで倒れているＭＤに駆け寄ると、
「う～ん、これもまた、撃たれている、ね？」とまた見たままをつぶやき、
「チクショオォォォ！」と叫ぶが早いかサラリーマンの腰にぶら下げてあった手榴弾をもぎ取り、
「ぼくが弾の上を滑って行きますから真っすぐ撃ち続けてください！」と言ってサラリーマンの撃つ弾の上にサーフボードを滑らせ、自分も助走をつけてボードに飛び乗り、まるで弾の上をサーフィンでもするかの如く警官隊目がけて滑って行き、ボカンと爆発して見事に自爆テロを成功させました。
それを見ていた虫の息のＭＤが、
「キヨ‥あっぱれ‥だ」と言ってガクンと首を落として、そのまま動かなくなりました。

つづく

■20080416（水）　～未来の日記～　⑯

うわぁ、すごい。
これがパンクロックかぁ‥
ステージから放たれる音の圧力に、ぼくはただただ圧倒され、テレビで見た彼らと、このステージでの彼らとのあまりのギャップに、とても驚いていると、
「ハニー！彼らって最高ね！」
と、いつの間にかクローバーがぼくの目の前に現われ、音で声がかき消されないようにぼくの耳元に顔を近づけると、
「踊りましょ！」と言ってクネクネと体を動かし始めました。
ぼくはクローバーのダンスがあまりにもユーモラスだったので、
「クローバー！そのダンスはなに！？」と聞くと、
「ポ△×☆ス」
「え！？」
「ポ・ゴ・ダ・ン・ス！感じるままに踊ればいいの！」と言いました。
感じるままにか‥ぼくもクローバーをマネして、感じるままに踊ってみよう。
ポゴポゴポゴ‥
ポゴポゴポゴ‥
あれ？踊ったこともないポゴダンスが踊れています。
ぼくは楽しくなってポゴポゴと踊っていると、
「おいハニー！おめえ上手に踊るなぁ！」
と、どこからともなくインディが現われ、彼は彼流にピョコピョコとステップを踏み、
「はっはっは！インディ！なかなかやるなあ！私と勝負だ！」とシュバイツァー博士まで現われ、ふと気がつくと、広場にいるみんな、それは若い人から老人まで、みんながみんな、それぞれが感じるままにポゴダンスを楽しそうに踊っていました。
ぼくはこんなに楽しい思いをしたのは初めてで、ライヴって凄い、パンクロックって楽しい！と心の底から思い、もっともっと体で感じようと目をつむって耳を澄ませば、ＳＤが奏でるギターの歪みはぼくの心臓にザクザクと響き、ＭＤが弾くベースのリズムはぼくの手足をボンボンと弾き、ＹＤが刻むドラムのグルーグはぼくの脳みそをグルグルと回し、なにより彼の叩いている姿はキュートでフワフワでカッコよく、そう言えばＹＤは顔もいいし足も長いし性格もいいから大人になったらこんなお兄さんになりたいと思い、それはともかくこの三人がステージから放つ音の洪水はこの数日間でぼくの身に起きたいろんなことを全て洗い流し、浄化し、お肌までつるつるになった気がしたその時でした。
パンパンパン！
音楽に交じって銃声のような音が聞こえ、後ろを振り返るとヘルメットを被った警官隊がいつの間にか列を成し、空に向かって威嚇発砲しているじゃありませんか。
「直ちに演奏を中止せよ！さもなくば発砲も辞さないぞ！」
ステージから流れる音楽に負けじと、警官隊もマイクスピーカーで声を張り上げ、じりじりとステージに向かって前進を始めると、逃げる人もいれば抵抗する人もいて、場内がざわざわとざわつく中、知ってか知らずか演奏を続ける三人、それを煽るようにますます激しく踊り狂う客、収集のつかなくなった駅前広場の上から下への大騒ぎに、ぼくの興奮も最高潮に高まったその時、一発の弾丸はぼくのたんこぶの先っちょをかすめ、真っすぐにＭＤの胸元に飛んで行くと、続いて二発の弾丸がステージに打ち込まれ、残りの二人に見事命中したのでした。

つづく

■20080413（日）　～未来の日記～　⑮

「ねえみんな、その最後の曲、聞かせてもらえないかな？」
ぼくはどうしてもその、パンクロックっていうのを聞いてみたくて、みんなにそう言いました。
しかしＹＤは首を振って、
「ハニー。聞かせてやりたいのやまやまだが、この街にライヴハウスはないんだ」と答えました。
すると突然サラリーマン風の男が現われて、
「野外でいいじゃないですか、例えばこの駅前広場でゲリラライヴ、なんてどうですか？」と、言ってきました。
ＹＤは突然現われた彼に驚きもせず、
「そりゃやれれば最高だな。しかし器材はどうするんだ？」と言い、サラリーマンは、
「それなら大丈夫です」と答えました。
それからちょっと失敬、と言いながらぼくのグラスを手に取ると、残っていた酒をゴクゴクと飲み、ふぅ～と息を吐き出すと、話しを続けました。
「いやあ、やっと話しに加わることができました。さっきから機は伺っていたんですが、なかなかねえ、はは。それでですね、器材、あるんですよ。実は私、ＮＧＫの社員でして、あの日の紅白でのライブ、会場で見てたんです。いやあほんっと、しびれました。目からウロコ、鼻から柿ピーが出る思いでしたよ。それからはもうみなさんの虜になりましてね、逮捕から数日後のオイールシティ行きの列車に乗り込む時のあの姿、あれを見た時に私決めたんです、この人たちについて行こう、この人たちと一緒に油になろう、って。でもその前に、私の人生にも最後の花を添えてみたい、それで閃きましたよ、ビビビっとね。それがこのオイールシティでのゲリラライヴなんですよ。で、思いたったら吉日に従い、ぱぱぱぱっと行動しまして、うまいことみなさんの器材を運び出し、ここまで来ちゃったんですよねえ、ええ。ですから大・丈・夫！器材はあります！」
サラリーマン風の彼は、見てくれはくたびれているけれど、目だけはとてもキラキラと輝いていました。
「そうか、じゃ、あんたのためにも、ここで一発、どかんとライヴ、やるかあ！？」
「オー！！」
と言う訳で、ゲリラライヴをやることになったぼくたちは、その場に居たみんなにも声をかけ、総勢３０名余りのスタッフを確保すると、綿密な計画を練り上げ、それを実行に移しました。
ぼくは、インディやクローバーや博士のことなどすっかり忘れて、ライヴのスタッフとしてみんなと一緒にステージを作ったり、電源線を引っ張ったり、お客の呼び込みなどをして働きました。
そしてみんなの努力の甲斐あって、こじんまりとですが、駅前広場のど真ん中にライヴステージが完成しました。
後はもう、音出しをして機械の準備を整えるだけです。
バンドのみんなはステージに上がると、それぞれのポジションにつき、音の調整をし始めました。
ジャカジャ～ン　(ＳＤ、ギター)
ツタタタタ　(ＹＤ、ドラム)
ボンボンボン　(ＭＤ、ベース＆ボーカル)
ステージから音が出始めると、ステージを囲むお客さんから歓声が沸き上がり、離れて見ていた人たちは次第に前へ詰め始め、音の調整が終わる頃には、広い駅前広場は多くの人で埋め尽くされました。
「よおみんな、油になる前にパーティーも、悪くねえだろ？」ＭＤがマイクでそう言い、続いてＳＤが、
「楽しんで行こうぜ！」と言うと、ＹＤが、
「１、２、３、４！」とカウントを取り、ステージから一斉に音が放たれると、ライヴは始まりました。

■20080410（木）　～未来の日記～　⑭

「ところで少年、君の名前は？」
みんなと乾杯、いや、みんなとロッケンローを終えたところで、顔のやさしい人がぼくに聞きました。
「ああ、ぼくはハニー。お兄さんちは？」
「ハニーか、よろしく。おれはＹＤ。でモヒカンのこいつがＳＤ、であのデカいやつがＭＤ」
ＹＤが紹介すると、二人は「よろしく」と言いながらグラスを傾けたので、ぼくも同じようにグラスを傾けました。
それからぼくはＹＤに聞きました。
「ねえＹＤ、芸能界ってどんな感じ？」
「え？芸能界か？う～ん、どうなんだろうな。おれたちはどちらかと言うとミュージシャンだからな」
「じゃあさ、ミュージシャンてどんな感じ？」
「う～ん、それはなぁ‥楽しい時は楽しいけど、カネが絡むと途端につまらなくなる」
そう言ってＹＤはグラスの酒をグイっと飲み干し、
「まあ、ハニーにはわからないかもしれないけどさ、テレビに出てたってつまらないこともあるんだよ」と言いました。
それを聞いていたＭＤが、
「でも最後のライヴ、あれだけは最高だったよな」と言うと、ＳＤも、
「ほんと、最後の最後にやりたいことがやれましたよね」と言ったのでぼくは、
「へえ～、それって、どんな風だったの？」と聞くとＳＤは、
「う～ん、十代の頃やったライヴと同じ感覚、ですかね」と言いＭＤも、
「そうだな、昔のように熱い気持ちでやれて楽しかったよな」と言いました。
今いち話しが見えないぼくにＹＤは、
「ハニー。おれたちはテレビに出る前、いや、ＣＤが売れる前はパンクバンドだったんだ」と言ってタバコに火をつけ、
「そりゃあ格好は昔とたいして変わっちゃいない、でも、曲も詩も心までも、昔とはずいぶん変わっちまったんだよ」と言って煙を吐き出しました。
「あのう、よくわかんないんだけどさ、なんで変わっちゃったの？」とぼくが聞くと、
「そりゃあやっぱ、売れるため、バンドで飯を食うためだよな」と言い、
「そうですね、自分ちの好きにやっててもダメだったんですよね」とＳＤが続くと、後は三人で勝手に会話を続けました。
「ああ、それでテクを磨いたり詩の内容変えたり、曲も流行を追ったりして」
「そしたらだんだん客が増えてＣＤが売れて」
「小さいレコード会社からでかいレコード会社に移籍して」
「その辺りからだよな、バンドが売れるのとは裏腹に、やってる本人たちがつまらなくなったのは」
「なのにバンドは売れていく、カネも入って生活もリッチになっていく、そしてテレビに出るようになるとますますそれは加速する」
「なに不自由ない暮らしになってやっと気づいたんだよ、満たされた自由にはおもしろみのかけらもない、ただただ退屈なだけだ、ってさ」
「それはメンバー全員同じ意見だった。そして決めたんだ、もうやめようって」
「で、やめる前にどでかいことしようぜって、ちゃんとしたパンクロック、聞かせてやろうぜって言ってさ、暮れの紅白、ほとんどの国民が見るテレビ、それに出てかましてやったんだよ」
「あれは傑作でしたよね、みんなびっくりしてたもん」
「そりゃそうだろう、この星とこの星の神、オイールをクソミソにけなした歌を歌ったんだからな」
「そしたらその場で警察やら政府の連中やら来やがってさ、反逆罪で逮捕する！つってな」
「その時のあのセリフはしびれましたよ、「歌いてえ歌も歌えねえくれえなら死んだほうがましだ！油にでもなんでもしやがれ！」って」
「で、めでたくここへ送られたってわけだ」
三人はそこまで話すと、しばらくげらげら笑っていました。
ぼくは、話しの内容は今いち理解できなかったけど、パンクロックって、とてもカッコいいんだろうな、と思いました。

つづく

■20080407（月）　静岡サーカスタウンライヴ！

みなさん、最近迷子になったこと、ありますか？
行きたいとこに行けず、歯がゆい思いしたこと、ありますか？
ぼくはありますよ。
それは先週土曜日のことでした。
この日ぼくは静岡でライヴがあり、ライヴ会場が青葉公園の近くだという情報だけを頼りに、ひとり車で出掛けたのです。
本来ならメンバーと行くとこなのですが、ぼくは仕事があったために、ひとりで向かうことにしたんです。
ライヴの出演時間は１９：５０、家を出たのは１８：００。
普通に行けば家からは４０分もあれば十分着ける距離です。
しかしこの日は運悪く、目的地周辺では静岡祭りというイベントが行なわれておりました。
当然ながら道は込み、各所で交通規制も行なわれ、なかなか目的地に着くことができません。
焦ったぼくはカンを頼りに裏道を走ろうと思いました。
しかし、この考えが大いなる失敗を招いたのです。
なぜなら、ぼくは生まれつき方向音痴という病気を持っていて、そもそもカンで目的地に着いた試しがないのを忘れていたのです。
ですから広い通りから一歩裏手に出た途端、目的地の方向も自分のいる位置さえもわからなくなり、押し迫るライヴの時間に焦る気持ちが後押しし、軽いパニックに襲われ涙が出そうになったその時です。
プルルル‥プルルル‥
迷子「もしもし？」
メンバー「ねえ、今どこにいるの？」
迷子「どこと言われてもなあ‥」
メンバー「あのさあ、もうすぐ出番なの、わかってるよね？」
迷子「そりゃあわかってるよ」
メンバー「じゃあ早く来てくんねえ？」
迷子「そりゃあおれだって早く行きたいさ、しかし早く行けないから困ってんだよ」
メンバー「‥今どこにいんの？」
迷子「だからそれがわかれば苦労しないって」
メンバー「おまえさあ、まさか迷ってんのか？」
迷子「う、う～ん、そうとも言えるな～」
メンバー「はあ？なんで青葉来るのに迷うことあんだよ、何年静岡県に住んでんだよ！」
迷子「だってしょうがねえら？おれだって迷いたくて迷ってんじゃねえんだからさ！」
メンバー「‥もういいよ、とにかく落ち着こう、時間がねえわ。で、今どんな建物が見える？」
迷子「これこれこうでこんなのがある」
メンバー「はは～ん‥よし、じゃあその通りをまずＵターンして○○の店を過ぎた次の信号左折して」
迷子「今○○店通過‥今信号左折しました」
メンバー「そしたら次の次の信号右折、そうすればおれが左側に居るの見えると思う」
迷子「ラジャー！」
それからその通りに車を廻すとほんとにメンバーは居ました。
ぼくはこの時ほどメンバーが愛しく思ったことはありません。
車を止めてメンバーと感動の再会、そして熱い抱擁をして涙が頬を流れ‥る前にメンバーの開口一番の罵声の嵐に違う涙が出そうになりました。
それから車をとばしてライヴハウスに到着。
まもなく出番はやってきました。
この日のライヴはおれたちキャメルとは長い付き合いであるブラザーバンド、[ザ・スリー」と今年一発目のライヴはこのバンドの企画で始まった、[ライムサワー」の合同企画ライヴ。
対バンは初対面ばかりでライヴハウスも初めての店とあってなんかすごく新鮮な気持ちでライヴを楽しむことができ、その後の打ち上げも運転があるから酒は飲めないながらも楽しい打ち上げとなり、前半軽いハプニングがありながらも楽しい一日になりました。
さて、キャメルクラッチ次回のライヴは４／２６富士アニマルハウス。対バンにはイカスパンクバンド、ＴＨＥＳＥＣＴ。
次回もまたマイカーでひとり出掛けることになりそうだけど、アニマルなら大丈夫。みなさん安心してお越しください。
それではまた。

■20080404（金）　～未来の日記～　⑬

「さあて、私もインディに習って少し目をつむるとしよう」
博士はそう言うとゴロンと横になりました。
クローバーは相変わらずイケメンに夢中です。
退屈になったぼくは、話し相手になってくれそうな人が居ないか、キョロキョロと周りを見渡しました。
あれ？あの人たち、どこかで見たような気が‥
隅の方で壁にもたれて座っている三人組に目が止まったぼくは、自分のグラスと博士の酒瓶を持ち、そちらに移動するとそっと三人組の隣に座りました。
「だからさあ、おれはバターコースターだけは嫌だって言ってるじゃん」
「なんで、絶対おもしろいと思うけどな」
「あ、これなんてどうです？ぽーさんのガールハント」
「嫌だよそんなガキくせえの、おれは断固マラジンとイケナイランプに乗りたい」
「じゃあもういいよ、みんな別行動にするか」
三人はパンフレットを見ながら何かもめてるようでした。
ぼくは首を伸ばしてパンフレットを見ました。
そこには大きな文字で[オイールランド]と書かれ、その下に地図みたいな絵が書いてあり、それはまるで遊園地の入口でもらうのによく似ていて、
「ちょ、ちょっと少年、君の角がぼくのほっぺたに刺さってるんだけど」
ぼくの頭を軽く押し返しながらそう言ったのは、ぼくのすぐ隣に座っているやさしい顔をした人でした。
「それって角？角って言うか、ちんぽ、ちんぽみたいだ、へへへへ」
そう言ったのは、真ん中に座っているウルトラマンみたいな頭の人でした。
「ばかおまえ頭に角なんて生えるかよ、たんこぶに決まってんじゃん。ちんぽ型の‥」
そう言ったのは一番端に座っている体の大きい人でした。
「おいおい君たち、ちんぽちんぽって言いすぎだよ。しかし少年、それ、どうしたの？」
やさしい顔の人がそう聞いたので、
「あ、いや、これはお父さんに殴られてぽっこりと膨れて‥それより、そのオイールランドのそれって？」
とぼくはパンフレットを指さし聞きました。
「ああ、これかい？これはオイールランドの乗り物案内。みんなこれに乗って油になるんだよ、夢見心地のままね」
「そうそう、だから人生の最後にふさわしい乗り物を相談してるんですよね」
「しかし、どんな仕組みかは知らねえけどさ、よくできてるよな」
三人が順々にしゃべる姿を見たぼくは、ふと、この三人をどこで見たのかを思い出しました。
「あ！お兄さんたち歌を歌う人たちだよね！？バンドって言うの？テレビで見たよ！」
興奮したぼくは言葉を続けました。
「わあすごいなあ、有名人だあ！‥え？でもなんで？なんでこんなところに居るの？」
ぼくがそう聞くと、
「ま、少年、君がどうしてこんなところに居るのかを逆に聞きたいところだが、とりあえずその酒で乾杯しようじゃないか」
とやさしい顔の人が言い、ぼくが持ってきた酒瓶からみんなのグラスに酒を注いでまわりました。
「じゃ、ロックと、少年との出会いに」
彼がそう言ってグラスを上げると、みんなはみんなのグラスにカチカチとグラスを当て、当てる度に「ロッケンロー」と言いました。
ぼくは「乾杯」を英語で言うと、「ロッケンロー」になるのだと思い、ぼくもみんなに習って言ってみました。
「ロッケンロー」
あれ？なんて素敵な響きなんだろう‥
「ロッケンロー」
わあ気持ちいぃ‥
「ロッケンロー」
うははは‥
「ロッケンロー」
ロッケンロー
ロッケン‥

つづく

■20080401（火）　～未来の日記～　⑫

「私が居た過去の世界では油は土の中から採れると言ったね？しかしその油の採れる量には限界があったんだ。そこで代わりになる油を開発する為の研究所が設立され、私はその研究所の科学者として働いていたんだ。今の油に匹敵するくらい爆発力のある油、その油の元になる資源、それはもうありとあらゆる物質からの抽出を試してみたよ。しかしどれもこれももう少しのエネルギーが足りない。そこで私はついに動物からの抽出を試みるようになった。最初は魚類、次に爬虫類、そして哺乳類へと手を染めていった辺りから、私の精神は崩壊していったように思う。これは余談だが、研究に没頭する余り家にも帰らなかった私の家庭では、妻は愛人をつくり、息子は麻薬に侵され、娘は家を出て行った。しかし私も私で若い助手と関係を持つようになり、ますます家に帰らなく‥とこれはほんとに余談かな？ま、とにかく日夜研究に研究を重ねた私は、ついに神をも恐れぬ抽出に手を出した。その油がヒューマンオイル、つまり人から採れる油だったんだ。しかしこの油には驚いた。なにしろ
ある一定の電流を流し、ちょこっと電気溶解するだけで、たったの１リットルの油でジェット機が八時間も空を飛んだんだ。しかも油は人の体積の３０％も採れる。まったく、その時の興奮は今でも忘れられないよ。これならもう、いつ土の中の油が底をついたって対処できる。最初はそう思った。だが、私はだんだん恐くなってきたんだ。死体とはいえ人間の体を資源のように扱う行為、その先に見える人類の未来の不穏。しかし私の不安とは裏腹に研究所は世界中から死体をかき集めだした。最初は秘密裏に、やがては大っぴらに。間もなくするとこの油のことは世界中に知れ渡り、この油を推奨し同盟を組みたがる国、神への冒涜だと非難し油の抽出を阻止しようとする国。世界は混乱し始め、それはやがてオイル戦争へと発展していったのだ。一方その頃の私はと言うと、巨万の富と名声は得たものの、あいかわらず崩壊しきった家庭に居場所はなく、外へ出れば金目当てで近づいてくるあらゆる人間たちが私を囲み、空を見上げれば絶え間なく飛んでいく爆撃機、その燃料は私が開発した
油であり、そもそもこの戦争を引き起こしたのも私の研究のせいではないか、そう思うととてもやりきれなくてね、もうなにもかもが嫌になった私はある日、この研究所と共に私自身も消えて無くなろうと思い、研究所に火をつけたんだ。そして燃え盛る炎の中、私の油はよく燃えるのだろうか、などとぼんやり考えたよ。それからいつしか意識を失い、気がつけばあの刑務所に居たってわけなのだが‥インディ、おいインディ！」
インディはいつのまにか横になって寝ていました。
クローバーは後ろに座っていたイケメンを逆ナンしていました。
最後までちゃんと聞いていたぼくは博士に質問をしました。
「それで博士は過去に戻ってどうするつもりだったの？」
「え？ああ、そりゃもちろん、オイルの研究を阻止しようと思ったよ。だが、そうするとこの星や君たちの存在が無くなってしまうではないか。だから迷うのだよ。戻るべきか、戻らざるべきか‥」
そう言って遠くを見つめる博士にぼくは、
「でも戻り方がわからないんでしょ？」
と言うと、
「わっはっはっは。坊や、そのとおりだよ、思い出すんじゃなくて思いつかないってわけだな、はっはっはっは」
と笑って、また酒をゴクンと飲みました。

つづく

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